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奥田英朗「無理」に見る近未来の絶望

 発作的にPIXERのフルCG"CARS"に出ているMIATAを見たくなってamazonでBlu-Ray探し。
 ポチッとなを終えたあと、ふと気になって奥田英朗の「無理」という小説を探してみたら700円台になっていたのでこれも購入。 昨年来、毎日新聞の書評で気になっていながら、二千円近い価格に躊躇して古本待ちになっていた本です。
 
 アウトラインは公式サイトをご覧頂くとして、もともと地方の衰退はもはや止めることができないという主張を書いていた私としては、「生活保護を何としてでも得ようとする市民と、それを阻止せんとする役所」「軽自動車の普及は地方の主婦を売春に走らせた」「現代版地方豪族とも言える世襲議員」「ブラック会社に就職しながらそれなりに生き甲斐を感じている基暴走族」「新興宗教の教徒強奪戦争」等々、痛すぎるほどのコピーや書評が気になっていたのです。
 
 五百ページを超える大作ですが、二日で読破。 予想通り読み終わっても希望などは見えてきません。
 むしろ人嫌いになりそうだし、翌日は前を走っている車の運転手が買春をしているんじゃないか、年金が貰えずに死にかけの体で運転しているのではないか、急ブレーキを踏もうとしている当たり屋ではないか、と憂鬱なほど見方が変わるほどの内容です。
 一方で、漠然と「日本は今どうなっているんだろうか?」という疑問にはフィクションであるにもかかわらず、ノンフィクションを凌ぐ勢いで解説をしてくれているようにも見えます。
 
 ところどころ、さりげなく、しかし著者の見切った言葉が挿入されており、その中で最も印象的だったのが
 「将来ああなりたくないという大人に対して、十代はとことん冷たい」
 という言葉。
 あぁ、そうなんだけどね、でも厳しいね、その言葉。
 私はそれは本能的に知ってて、幻想を見せることはできているんだけど、ほんとそれは幻想です。
 
 あと、元暴走族の「這い上がれねえよな」という諦めの言葉も。
 
 一つ文句を言わせて貰えるなら、最後の最後、同じ事故に対する複数の登場人物の描写が重なる部分で、市会議員を締めくくりに持ってきたのは残念でした。 ハッピーなのかアンハッピーなのか分からない微妙な不協和音で終わりつつも綺麗なアルペジオが流れてフェードアウトして行く、例えばビートルズのハードデイズナイトのエンディングのようなせめてもの救いを求めていた私としては、女子高生かケースワーカーの視点を最後に持ってきて欲しかったですね。 せめての希望として。
 
 奇しくももともとこの本を手にしたきっかけになった"CARS"もバイパスができて寂れきった街が主題で、こちらはさすが最後に希望を見せるハリウッド映画らしくハッピーエンドで、対照的な結末。 でも現実逃避だよなぁ、これ。
 
 たった10分短縮するためのバイパスができて、そのお陰でそれまでの社会構造が崩れ、しかしそのバイパス工事はれっきとした公共工事であり、そこには地元の土建屋と議員が絡んでいて、しかしそれとは無関係に良心の教育程度と収入によって子供の教育レベルも比例し、出来るものは都会に流出し、そうでないものは地元で腐敗して行くしかないというような図式は正直厳しい読後感です。
 
 ただ、突然あり得もしない殺人が起きたり、超能力が芽生えたり、といった、思わずその場で本を投げつけたりするようなこともなく五百ページを読んでしまったと言うことは「いちいち腑に落ちたから」という理由が最も適切なんだと思います。
 
 この奥田英朗という著者、年齢的にもほぼ私と同じで、この「ノンフィクションよりノンフィクションっぽいリアリティの描き方」は非常に刺激になりました。

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