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なぜ乗り合わせたJR運転手は立ち去ったか?

 たまたまJR西日本の脱線事故のコラムが続きますが、別にそういうサイトにするつもりは無く、本来はもっと気楽な話題を書いて行くつもりです。
 ただ、JR発足後ずっと関係者の間で指摘されて来た事が最悪の事態という結果で現れたということをつぶやきとしてでも残しておきたいという気持ちです。
 
 私の父は旧国鉄職員でした。 いわゆる中間管理職と言う立場で、最も労使紛争が激しかったときの現場の仲裁役という激務に追われ、過労による肝硬変で急死しました。 今なら恐らく公的な過労死認定でしょう。
 その父がずっと可愛がっていた部下の方々が今でも年一回、仏壇に手を合わせる為に母の家を訪れてくれます。
 私も時々その場に参加しますので、いろいろと話をさせて頂くのですが、JR化以後の労働管理は非常に厳しく、「いつかえらいことになるで」というのがいつもの結論でした。
 もっともそれは在来線ではなく、新幹線ののぞみが脱線して未曾有の大惨事、という予測だったのですが、形は違えど、二十年近く危惧し続けて来た事が実際に起こると、部外者ながら何とかならなかったのかという気持ちになります。
 
 事故列車に乗り合わせたJR運転士が救助活動をせずにそのまま立ち去って所定の勤務についた事が報道され、人格を疑うという献花者のコメントも併せて流れました。 さらにそれぞれの反省文が原文のまま新聞やテレビで伝えられると、まるでギロチン処刑前の口上文読み上げのように私は感じました。
 確かに彼らの行動は非常識だった。
 しかし彼らは本当に人命よりも仕事を優先する様な冷血で思慮の浅い人たちだったのでしょうか?
 一人ならともかく、二人揃ってそういう非社会的な人物であったとは考えにくい。
 
 それでも出勤せざるを得なかった事情は、つまり出勤しなければ彼らもまた管理側から処分されるという恐怖があった訳です。 通常の会社では欠勤に相当しますが、人手が無いからこの電車は運休とはいかないのが運輸業の宿命です。
 もちろん不慮の事態に備えて予備の人材も待機させてはいますが、何事も無く推移すれば彼らの勤務は経営者側から見ると無駄な費用となり、できるだけ予備配置は控えようと考えるのが自然です。 もしあの日、他のトラブルで既に予備要員が出払っていたら運休という最悪の結果にも繋がりかねません。
 そうなったら利益を第一の目的に掲げていた会社側は休んだ運転士を許しはしないでしょうし、常日頃からそう言い含められていた筈です。
 
 一般の方はどう思われているか知りませんが、鉄道車両の運転士というのは想像以上の責任感とプライドを持っているのが普通です。 それが裏目に出たのが脱線事故を起こした高見運転士の行動であり、現場から立ち去った運転士二名もまた、「自分のせいで電車が走らず、多くの人に迷惑をかけたら」とも考え、またその結果、誇りを持っている運転士職からおろされたら、と考え、断腸の思いで業務を優先したのだと私は想像します。
 つまり、他人の命を奪う事も無く、自分の命も無事ではあったものの、高見運転士と同じ極限的精神状態に置かれていたという見方もできる、という事です。
 それほどの責任感とプライドが無ければ安い給料で運転士なんて激務ができるか、というのが父の部下の本音です。
 
 また、電話で事故の報告を受けながら敢えて出勤を指示した当直の上司も立場こそ違え会社の方針と言う重い重圧を受けていたとも言えます。
 この点では最初は運転士の乱心と捉えられていた報道が、会社の常軌を逸した労働管理に根本原因があるという風に比較的早期に論調が変わった事は評価できると思います。
 
 しかし、なぜJR西日本はそこまでの厳しい管理を敷いたのか?
 私は旧国鉄時代の仕事自体が悪である、といわんばかりの行き過ぎた労働組合運動にあったと私は捉えています。
 あの時代に経営側は労働者不信となり、手綱を緩めるとまたあの悪夢が蘇る、という強迫観念に似た認識があるのではないかという訳です。
 
 国鉄民営化の時、当の国鉄職員達はこれが徹底的な組合潰しであると捉えていました。
 組合闘争に父を殺された私としてはこれをはっきり評価しています。 あれは既に労働者の権利を守る為の団体ではなく、公的運輸業に巣食う政治的、思想的な癌でしたから。
 しかし、一方でもしそれが経営側の過度の労働者不信を生んだとすれば、数十年の時を経て今、亡霊のように惨事を生み出す為に表に吹き出したようにも見え、何ともやるせない気持ちになるのでした。

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